BGM動画
『ゴミ箱の世界と月の光』のオリジナルBGM動画です。ぜひ最初に流してからお進みください。
登場人物紹介
名前:田中タカコ(たなか たかこ)
年齢:23歳
職業:フリーター(カフェバイトとイベントスタッフを掛け持ち)
特徴:ピンク好きで、元ちょいギャル。
性格:明るくお調子者。細かいことは気にしない。
好きなもの:ピンクの小物
苦手なもの:細かい作業
名前:エジコ(愛称:エジ)
年齢:タカコから「人間だと3歳くらいじゃん?」と適当に言われているが不明
特徴:手のひらサイズの小さな亀。頭に巻かれたピンクのリボンがチャームポイント。
性格:几帳面。いつもハプニングに巻き込まれる。
好きなもの:リボンのコレクション
嫌いなもの:散らかった部屋
第1章 ゴミ箱の世界へ
「す……吸い込まれるっっっっっ!!!」
自分の悲鳴が響きわたり、ドスンと地面に叩きつけられた衝撃が体を包む。
「……痛っ! え、なにこれ……?」
目を開けると、あたり一面ゴミの山。……見覚えのあるものばかりが転がっている。片方なくしたから捨てたハイカットスニーカー、フェスで1回着ただけのネオンカラーのTシャツ、昔流行ってた色の、中身が干からびたマニキュア……。
「……これ、全部、私が捨てたやつじゃん?」
呆然としながら立ち上がると、空には遠くに不気味な月が浮かんでいた。スマホを探そうとポケットに手を突っ込むが、ない。何か手がかりはないかとあたりをウロウロするけど、見えるのはゴミばかり。
「ちょっと待って、どうなってんの!? 誰かーっ! 助けてぇー!!」
返事はない。ため息をつきながら足元のゴミをどかそうとしたけど、鼻を刺す匂いに『最悪なんですけど!?』と思わず顔をしかめた。そして私は、タピオカミルクティーのカップを勢いよく蹴っ飛ばしながら叫んだ。
「マジでこれどういう状況!? 意味わかんなすぎるんだけど!」
途方に暮れて、その場にペタッと座り込んだ。
第2章 究極のサバイバルガイド
その頃、エジは窓際で今日も甲羅を磨いていた。
♪ ラ〜ラ〜ラ〜ン、リボンを巻いて〜、今日もステキな〜一日を〜 ♪
頭に巻かれたピンクのリボンがゆらゆら揺れる。
「うん、今日も完璧♪」
鏡の前でくるりと一回転してから、いつものようにタカコさんのベッドに向かう。だが、布団はぐしゃぐしゃ、スリッパは片方だけ転がっている。
「あら? タカコさんが見当たりませんね……?」
違和感を覚えて部屋を見回すと、ゴミ箱がいつもと違う不自然な角度で傾いている。
「……何かおかしいですね」
その時 ––
「助けてー!!」
かすかに聞こえたその声に、エジは目を丸くした。
「えっ!? タカコさん!? ゴミ箱の中!?」
急いで駆け寄り、短い前足でゴミ箱を叩いてみる。
「どうか待っていてくださいね。エジが必ずお助けしますから!」
今度は小さな甲羅をフタに押しつけ、両足でバタバタ叩いてみる。でも、フタはびくともしない。
「どうしてこんなに固いのかしら……全然動かないわ……!!!」
一度深呼吸して、エジは目を閉じた。
「何かいい方法は……あっ!」
エジは静かに背中を丸めると、甲羅がスルリと滑るように移動した。ちょうどお腹のあたりにくると、エジはその甲羅をポンポンと軽く叩く。すると、甲羅の一部がスライドするように開き、中には不思議な空間が現れた。
小さな前足を不思議な空間の中に入れてごそごそと動かし、何かを引っ張り出す。
「これですね!『カメが甲羅に隠しておきたい!究極のサバイバルガイド』!」
ふと思い出したのは、甲羅の奥深くに大事にしまい込んでいたおじい様の本だった。
「きっと何か役立つことが載っているはずです……!」
ページをめくりながら、必死に目を走らせる。
「えっと……フタが開かない時は……あっ、これですね!」
見つけたのは『カメの秘密道具!リボンを使って固いフタを引っ張る方法』。
「エジのリボンを使うしかありません!」
エジは自分の頭に巻いてあるピンクのリボンを外しゴミ箱の隙間に結びつけ、力を込めて引っ張り始めた。
「タカコさん、必ずお助けしますから!!」
小さな体がプルプル震え、甲羅には汗がにじむ。でも、エジは諦めなかった。
第3章 最高の相棒
ゴミの山の中、私は座り込んでいた。
「あー……マジで出口ないんですけど……」
その時、遠くでガタガタと音がした。
「……え?」
耳を澄ますと、小さな声が聞こえた。
「タカコさん! エジがお助けしますから!」
「エジ!? お前、喋れんの!?」
私は、初めて聞くエジと思われる声に驚きながら言葉を返した。ふと顔を上げると、遠くの月がぐらぐらと揺れ始め、眩しい光が強く差し込んできた。その瞬間、体がふわっと浮き上がり、強い力で月に引っ張られるような感覚に襲われた。
「うわぁ!? やばいやばい、す……吸い込まれるっっっ……またかよ!!」
次に目を開けると、いつもの部屋だった。
「……戻ってきた?」
目の前には傷だらけのエジがいた。ほどけたリボンはボロボロで、甲羅には小さな傷がたくさんついている。エジはじっと私を見つめていた。
「エジ……お前、助けてくれたの……?」
エジは何も喋らず、いつもの無言のエジに戻っていた。
「なんかすっごい頑張った感じじゃん……待って、手当てするから!」
私は急いで部屋の片隅からティッシュと消毒液を取り出し、エジを膝の上に乗せた。
「痛かったらごめんね〜。 でもさ、これしないと治んないから!」
ティッシュに消毒液をつけてから傷口をそっと拭き、ボロボロのリボンをゆっくり外す。絆創膏を貼る手が少し震えながらも、エジの小さな体を見てなんだか胸が熱くなった。
「ほんとさ、ありがとね。 マジな命の恩人ってやつじゃん」
私はこぼれる涙を袖でグイッと拭った。
次の日、私はエジを連れて海へ出かけた。
「じゃーん! 新しいリボン〜!かわいいでしょ? 」
エジの頭に巻き直された新しいピンクのリボンが、朝日に照らされてキラッと輝く。
「これからはエジも、物も、ぜ〜んぶ大切にするからね!」
エジは何も言わなかったけど、嬉しそうに甲羅を揺らした気がした。
「……ねぇ、やっぱ喋ったよね?」
私がエジの目をじっと見つめると、エジは慌てて目をそらして、甲羅を小さく揺らしながら砂浜をちょこちょこ歩きだした。
(やっぱり、あの声は幻だったのかな)
「……でも、助けてくれたのは本当だし、やっぱありがとね!」
私は砂浜にペタッと座り込み、近くにきたエジをそっと手に乗せた。
「エジってさ、普段何も言わないけど、ちゃんと見ててくれてるよね。偉いわ〜、私とは大違い!」
エジはじっと私を見つめたまま動かない。でも、その瞳が(ちゃんとわかってるよ)って言ってくれてる気がした。
「ねぇ、これからさ、もっと一緒に楽しいことしようよ。おしゃれなリボンももっと集めよう! あっ、写真もいっぱい撮って、エジ専用のアルバム作っちゃおっかな!」
私が一人で盛り上がると、エジは小さな足で私の手の平をトントンと叩いた。
「え、なになに? 賛成ってこと?」
私がニッと笑うと、エジもなんとなく甲羅を揺らして答えてくれているような気がした。
「よーし、決まり! これからもよろしくね!」
波が静かに寄せては返す中、私はエジを手のひらに乗せたまま、ピカピカのリボンを優しく撫でた。
「やっぱエジ、カワイイなぁ。うちの相棒にして正解!」
波音と笑い声が静かな浜辺に溶け込んでいった。
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